エコノメソッドでプロサッカー選手を育てるまでのブログ
サッカー愛にあふれたうんちく話

頭を整理する

サッカーを楽しむ準備

昨年の夏,久しぶりにジュニアチームを率いて大会に参加しました。

仲間の好意で誘ってもらったのですが,監督として指揮させていただきました。

地元の伊勢フットボールビレッジで行われたU11の大会で,私がコーチ時代に関わった子や現在ボランティアで関わっている子,そして三男坊がチームのメンバーです。

初めての子もいました。

つまりは寄せ集めチームです。

だからチームの大会参加の目的が「サッカーを楽しむ」でした。

でも大会なので当然勝ち負けがあります。

優勝を目指さないと面白くありません。

ではその過程で全員がサッカーを楽しむためにはどうすればいいのかです。

まずは全員のプレー時間を均等にしました。

さらに明確にゲームモデルを設定しました。

① 選手の配置でダイヤモンドを作り前進する。

② ボールに近い選手からプレスをかけて遠い選手は中央に集まる。

寄せ集めチームですので,本来のチームで学んでいることがあります。

ゲームモデルを明確にすることで,それらを生かしながら,全員のプレーの方向性を整理しました。

8人制だったので選手の配置は「1-2-3-2」です。

見ての通りダイヤモンドがたくさんできていますし,5レーンで考えればすべてのレーンに人が配置され,「ずれて」います。

ボールをグループで運びやすく,自分たちが攻撃時に主導権をとれます。

ディフェンスラインも3ラインになっていて,それぞれの役割が明確です。

今回のチームのゲームモデルには最適だと判断しました。

大会初日「仲間を知る」

大会初日は,選手の特性を観ることに費やしました。

本人の希望もありますが,このゲームモデルでよりチームの勝利のために効果的なプレーが出来そうなポジションを探っていきました。

1日目は強度が高すぎる相手には複数失点してしまいましたが,②のディフェンスは高い意識で継続して実行できていました。

大会二日目「個がチームにつながる」

2日目は,最初のミーティングで今回のゲームモデルに最適だと思えるポジションを各人に2つ与えました。

例えばリーダーシップがありシンプルにボールを動かせる選手は,センターハーフとセンターバックに,ドリブルで縦に前進でき,運動量が多い選手は,サイドハーフとフォワードのような感じです。

20分ハーフの大会だったので,1試合で一人に与えられるプレー時間はGKと不測の事態以外は20分と決めました。

選手の配置も何パターンか用意し,試合ごとにその中から選手に選んでもらいました。

今回の大会は相手に合わせて配置を変えるのではなく,自分たちが決めた配置は変えずに,相手の強度やシステムに合わせて,修正する方法をとりました。

育成年代なのでサッカーを楽しみ,サッカーを学ぶことが1番大事です。

勝利が1番ではありません。

2日目は,バルセロナアカデミー奈良の選抜チームと対戦しました。

ゲームモデルが整理されているチームで選手の質も高いです。

見事にずれているところを利用されて失点してしまいました。

でも,この寄せ集めチームはここから驚くべき対応をします。

①をするために,②の意識を高めていったのです。

中央をしめながら,ボールサイドの選手は激しいプレッシングを実行したのです。

すると相手はずれが無くなったことにより,スムーズな前進が出来なくなり,ボールを下げるシーンが増えていきました。

ボールを下げさせたことをスイッチにして,一気にディフェンスラインを押し上げてハイプレッシングをかけます。

寄せ集めチームとは思えないほどの連携で継続したプレッシングとコーチングで対等に渡り合い,敗戦はしましたが見ていた保護者を感動させました。

「いい守備だった。」「見ていて面白かった。」「みんなが頑張っていて感動した。」

保護者の声です。

「バルサとやれて楽しかった。」「レベルが高い相手とやると楽しい。」「負けたけど楽しかった。」「またやりたい。」

子どもたちの声です。

このようにゲームモデルが明確だとそれぞれの役割が明確で,何が出来て何が出来ていないのかが個人もチームも分かりやすくなります。

この試合の課題は①の攻撃でした。

相手があるスポーツで自分たちが主導権を握ることは容易ではありません。

特にサッカーのようにボールを足で扱うスポーツは,相手を観ながらボールを扱うので大変です。

そこで私はボールがあるダイヤモンドの辺の距離をもう少し短くすることを提案しました。

メリットとしては,キック力がまだ弱いU11の選手であることと選手のサポートが近いこと,そしてミスをしたときにすぐにボールへプレスがかけられるということです。

普段から各チームで4対2や4対1のロンドをしています。

その時はもっとボールを奪われずにできているはずです。

それをそのままゲームに持ち込む発想です。

子どもたちはどうしても試合は試合,練習は練習になってしまいますが,その発想は良くありません。

練習は試合のためにやっているのです。

だからロンドは必ず試合の中で出来ます。

2日目の最終戦で試みました。

するとたとえ自陣深くであっても4人でダイヤモンドを形成して2タッチほどでボールを動かし状況を打開していきました。

不思議かもしれませんがこれが位置の優位です。

優位な位置にいれば相手は困るのです。

子どもたちは強度が高い相手に①で対抗して,なんと引き分けに持ち込みました。

残念ながら決勝トーナメントには残れませんでしたが,順位決定トーナメントで優勝を目指すことになりました。

大会三日目「優勝を目指す」

チームはずいぶん成熟してきていました。

今日はチームとしてどれだけ勝利への意欲を持てるかです。

つまりゴールを奪い,ゴールを守り,ボールを奪えるか。

チームは決勝に進出しました。

小雨が降る中でしたが選手は充実した表情でした。

決勝の相手は県内でも有数の強豪チームでした。

試合が始まると,相手は1-3-1-3でハイプレスをかけてきました。

そのプレスに気づかずに数的不利な状況でビルドアップでつかまり失点してしまいます。

給水の時に尋ねました。

「相手は何人でプレスに来ているの?」

すると

「3人」

と答えました。

育っています。

「うちは2人のフォワードだから,相手は3人のディフェンスを残している。ということは相手は中盤に1人しかいない。うちは中盤に3人いる。だから中盤の一人はディフェンスラインに入ってビルドアップを助けよう。そうすれば中盤は2対1になって必ず一人が空くよ。ゴールキーパーを使いながらマークがついていない中盤の選手にパスしたら相手プレスを逃げられるよ。」

ちょっと難しいのでボードを使って説明しました。

子どもたちは「おお!」と言う顔で自信が復活してきました。

するとです。

なんと後半に逆転して優勝したのです。

特に最後のゴールは中→外→中でフニッシュに持っていき,何本もパスがつながったとてもきれいなゴールでした。

ちゃんとダイヤモンドになっていました。

中央のシンプルなプレー,サイドのドリブル,フォワードの走り込み,全てがつながりました。

子どもも保護者も歓喜しました。

寄せ集めのチームが県内の強豪チームに均等なプレー時間で勝利したのです。

たった3日間でしたが,子どもたちはサッカーを楽しみながらサッカーを学び,仲間とともに勝利を目指す醍醐味を体験したのでした。

試合後の感想では,どの子も初日と比べて見違えるほど,具体的な成果と課題が言えるようになっていました。

スモールステップ

これは,指導者が子どもたちの頭の中を整理してあげることで,子どもたちは成果と課題が明確になり,確かな学びができる一例です。

私は子どもたちにきっかけを与えたにすぎませんが,このきっかけこそが子どもたちにとって大切なことなのです。

スモールステップ。

子どもたちはきっかけから学び,一歩一歩成長していくのです。