エコノメソッドでプロサッカー選手を育てるまでのブログ
ちょっといい学校話

多忙の中にある幸せ

先生は多忙

私は教育実習を終えた時,大切なことを見逃していました。

それは「先生は授業だけをしているわけではない」ということです。

放課後の先生は一体何をしているのか?

そこは実習中に見てきませんでした。

三重県の教員採用試験に合格した私は,三重県北部の小学校に勤務することになりました。

4月1日に辞令交付を受けた私は,晴れて三重県の公立小学校の教諭になり,公立校で先生として勤務を開始しました。

そこで待っていたのは想定外の校務分掌の多さでした。

私は新規採用でしたので,校務分掌は軽減されていましたが,2年目からは容赦はありません。

私は日に日に校務の過酷さを感じ始めました。

指導案,実施計画,学級経営案,委員会,部会,研修会,職員会議,学級事務,渉外関係の会議,保護者対応…。

気がつくと21時…。

まだ明日の教材研究が出来ていない…。

3年目の先輩の先生が偉大に見えました。

若いうちの苦労は買ってでも,と言いますがそんな余裕は無くなっていきました。

余裕がないのですから,子どもたちとの関係も余裕がなくなっていきます。

子どもは純粋ですから容赦なんかありません。

最初の物珍しさはあっという間になくなり,自分にとって「良い先生」かどうかを見定めるように駆け引きをしてきます。

私の初任時代はそれはそれは悲惨でした。

私なりに頑張ってはいましたが,子どもたちを包み込める度量は少なく,ひたすらぶつかって突っ込んで,何とかこなしていく感じでした。

それでも1年間を終えることができたのは,新米教師を温かく見守り支えてくれた保護者のおかげだと思います。

全然いい学校話になっていませんが,何が言いたいかというと,学校の先生は授業だけをしているわけではなく,様々な校務をこなしていることを知ってもらいたいのです。

夕暮れの入り江

一応17時前に勤務時間が終了ですが,子どもや保護者からしたら24時間先生です。

だから放課後にも様々なことがあります。

私が体験した放課後の出来事として,思い出深いことがあります。

当時は鳥羽市に勤務していました。

鳥羽水族館や御木本真珠島の鳥羽市です。

放課後,担任していたAの家に家庭訪問をしました。

ご両親はご不在だったのですが,Aとおじいちゃんがいました。

「先生,釣りにいこ。」

と言うのです。

家の目の前が入り江になっていて,堤防が突き出ています。

Aは竿と餌とバケツを持って堤防に歩いていきました。

私はのんびりとついていきました。

夕暮れの入り江は夕陽を浴びてキラキラと輝いています。

凪でしたが漁船が通ると時おり磯の香りがします。

Aは狙いを定めたかのように堤防の下に糸を下しました。

よく見ると岩牡蠣が張り付いていて,そのまわりを魚が泳いでいます。

Aは見事にその魚を釣り上げました。

私は堤防に腰かけてAの様子を眺めていました。

まるで時間が止まったような穏やかな時間でした。

「先生,ちょっと待ってな。」

おじいさんが言いました。

おじいさんはその魚のうろこと内臓を取り除き,ビニル袋に入れて私に渡しました。

Aはニコニコとしています。

家庭訪問の本来の目的は達成したわけではありませんが,子どもの生活の様子がよく分かりましたし,それ以上に私が幸せを頂きました。

学校と地域の距離

近すぎても遠すぎても良くないと思います。

ではどうしたら絶妙な距離を保てるのか。

きっとこのような自然な関わりなんだと思います。

地域は学校に感謝して,学校は地域に感謝する。

私は魚をお土産に学校に戻りました。

残された校務は山積みでしたが,早く家に帰って煮付けにしたいと思いました。

急いで校務をこなす原動力になったことは言うまでもありません。

Aが釣った魚,Aのおじいさんがさばいた魚,それはそれは美味しい魚でした。

先生は多忙。

確かにその通りです。

でも多忙の中にも幸せな時間があるのです。