なぜ5月開催?
最近は5月に運動会を開催する小学校が増えました。それには色々と理由があります。
地球規模で言えば地球温暖化の影響です。
これまでは体育の日に近い九月後半に運動会をすることが多かったと思いますが,地球温暖化の影響で9月も夏休みにしてもいいんじゃないかと思うぐらい暑くなりました。
「熱中症の危険を避ける」
一昔前の根性論はさておき,子どもの熱中症対策は必須です。実際,この時期の屋外体育は命の危険すら感じます。
学校規模で言えば行事の集中です。
夏休み明けの運動会。文化祭。地域に寄りますが陸上記録会。修学旅行。今はもうほとんどやらなくなりましたがマラソン大会。6年生は行事で忙しく落ち着く暇もありません。
「行事集中を避ける」
ということです。どちらにしても子どもたちの安全や安心を考えた日程と言うことになります。
ただし近年は5月末でも結構暑いので,熱中症対策としてはあまり効果はありません。
それぐらい日程調整は難しいです。
昔ながらの組体操が減った(消えた)理由
運動会と言えば高学年の定番は「組体操」でした。
サボテンや倒立,扇,タワー,ピラミッド,ウェーブと聞けば懐かしく思う方もたくさんみえるでしょう。
しかしこれらには「危険」も伴います。
「高さ」や「派手さ」を追求していけば当然のことです。
土台の子は運動場の砂利が膝や手にめり込むし,自分の上に乗られて背中や肩が痛いし・・・。
上の段の子は高さの恐怖で足が震えます。
華やかで楽そうに見えて,実は落下の恐怖がかなりあるのです。
ましてや砂利のグランドに裸足です。
痛いに決まっています。
一概に組体操と言っても安全な組体操もあります。
例えばウェーブなど集団行動に近い種目です。
ですが,これまでの派手さに慣れた私たちからしたらそれでは少し物足りなく感じてしまいます。
それではなぜそんな危険な表現運動を続けてきたのか?
これに関しては色々な考えがあるとは思いますので割愛しますが,30代前半頃までの私も組体操の危険性にほとんど疑問を持ちませんでした。
「自分たちもやってきたことだから当然。」
そういう自分が歩んだ過去を美化しがちな考え方に私は麻痺されていたのでしょうね。
しかし時代は変わりました。
組体操の危険性に我々教師だけではなく世の中も気づき始めました。
そうしてあくまでも見た目が派手な高さのある組体操が運動会から減っていき,徐々に感情表現が豊かで安全な「ダンス」が中心になっていったのです。
新しい伝統をつくろう
当時の私が勤務していた小学校は伝統的に組体操を花形種目にしていました。
それも見た目が派手で高さのある子どもたちの努力がにじみ出るタイプの組体操です。
だから世の中の流れに合わせて安全な組体操に変えていくことがことが,保護者の思いに寄り添ったとしても自然でした。
しかし,5年生を担当していた私は6年生の担任と相談し,私は思い切ってダンスに変えることに決めました。
子どもたちに新たな可能性に気づかせる絶好の機会ととらえたのです。
早速,運動会実行委員会を立ち上げて,子どもたちとダンスについて話し合いを始めました。
これまでの伝統を引き継がないわけですから,子どもたちもざわつきました。
ちなみに保護者もです。
私は「この学校に新しい伝統をつくった最初の学年になろう。」を実行委員会のキャッチフレーズにして子どもたちの心を整えていきました。
さすがは無限の可能性を秘めた子どもたちです。
自分たちが伝統をつくることができるわけですから「気合」が入りました。
でも経験値が少ないのも子どもです。なかなか名案が見つかりません。
そこで私はとっておきの考えを提案しました。
それは,
「地元の大学生のよさこいサークルをゲストティーチャーに招く」
ことです。
本校はこの大学の教育実習生を毎年のように受け入れていました。
だから子どもたちにはなじみのある大学です。
私はこうなることを予想して,密かにこの案を実行していたのでした。
サークルの代表者にアポを取っていました。
子どもたちはこの案に賛成してくれました。
というわけで,小学生の実行委員+よさこいサークルの大学生で伝統作りに入ることになるのです。
子どもたちと考えたのは
「卒業生が運動会を観に来たときに一緒に踊れるダンス=伝統」
です。
自分たちが中学校3年生になった時,運動会を観に来た中学生全員(卒業生)がそのダンスが踊れる状態になれば,それは伝統になっているということです。
これはナイスアイデアでした。
でも,そんなダンスを創作できるのでしょうか?
そこで,大学生のアイデアです。
このサークルには,誰でもすぐ踊れる簡単なイベント用ダンスがあるというのです。
それがGREEEENの「グッキー」でした。
それを使ってもらってもいいと言ってくれたのです。
目の前がパッと明るくなった瞬間でした。
笑顔とともに
早速,高学年は大学生に教えてもらいながら「グッキー」のダンス練習に取り組みました。
教育学部の学生が多かったことでプレ教育実習さながらでした。
練習にはいつも子どもたちと大学生の笑顔が絶えませんでした。
さらにさらに私と実行委員はもう一つのダンスに取り組みました。
このダンスは大学生には頼らない自分たちだけのダンスです。
つまり「今年」のダンスです。
とはいえ,またしても創作するのは難しいのでインターネットで調べまくりました。
すると,名曲「学園天国」にのせて楽しく学園祭で踊る高校生の動画を発見しました。
振り付けも簡単かつ可愛らしく,小学生が踊っても気持ちの良いものでした。
私と実行委員はそれを採用することに決めました。
練習は,大学生が来てくれた時はグッキーを中心に踊り,来られない時は「学園天国」を踊るという流れです。
また,運動会は運動場で行われます。
運動場で踊るには振り付けだけでなく配置や衣装も大事です。
何度も何度も修正を加え,映えを意識しながら,大学生のアドバイスももらい,一つの作品を作り上げていきました。
高学年のダンスのテーマは「笑顔」です。
会場中を笑顔にするのが目標でした。
だから自分たちが笑顔でなくてはいけないのです。
運命の当日
そして当日,その日は快晴でした。
高学年の表現運動は運動会ではプログラムの最後に行われることが多く,本校でも同様です。
いよいよその時が来ました。
新たな伝統をつくるために,これまでにない「ダンス」という表現方法で,高学年の子どもたちは大勢の観客の前で練習の成果を披露しました。
小学校あるあるですが,高学年になると照れてダンスを踊らないということがあります。
しかし,この子たちは違いました。
自分たちで1からつくったダンス(完全な創作ではないけど)です。
誰もが晴れ晴れとした笑顔で踊り切りました。
みんなで決めた掛け声も運動場に響き渡りました。
青空のもと,大きな拍手を浴びる満面の笑顔の子どもたちと満足そうにそれを見つめる大学生の姿が,そこにはありました。
主役は子ども
このエピソードから学べることは,学校は「子どもが主役」であるということです。
子どもが運動会という行事を通して学ぶ,学ぶ,学ぶ。
それだけです。
このときの高学年は,「新しい伝統をつくる」と言う素敵な学びができました。まさに一生の学びです。
学校にはこんなに素敵な学びがいくつもあるのです。