父の大冒険
私は25年勤めた教職を退職し,専業主夫として奈良県で生活を始めました。この生活を機にSNSを始めました。これまでは立場上,控えていたのですが,せっかくなので何か新しいことをしたいと思い,手っ取り早くスマホさえあればできるSNSを始めたのです。
専業主夫生活をしていると,社会から取り残されたような気持ちになります。社会の中にいたらストレスで辛いのですが,いなかったら別のストレスが起きるのですから人は面倒くさい生き物です。
このSNSがきっかけで地元にいたら絶対に起きなかった人脈ができました。それが映画出演へとつながるのです。
SNSで繋がったサッカー繋がりの保護者の方は映画監督でした。彼と話をしている中で「奈良で映画を撮る予定があります。コロナ禍で空いた役があるからしてみませんか?」と打診されたのです。サッカーの保護者同士と言うこともあり,意気投合したからなのか,私に新しい世界を経験するきっかけをくれました。
専業主夫の私にとって断る理由はありません。私は人生初の映画出演に向けて,頂いた台本のセリフをひたすら覚えました。
そして当日を迎えました。
撮影場所は奈良クラブのスポンサーの大和ハウスさんの研修施設である「コトクリエ」でした。私は役者として人生初の控室に案内され,若手俳優さんと一緒に待機することになりました。もうソワソワが止まりません。
いよいよ私の出番になりました。最初の出番はその他大勢の一人でしたので余裕でしたが,次はセリフ有りで,役者さんとの絡みも有り,ボランティアさんが多数いる中での演技でした。
カメラを向けられて「シーン○○。用意,スタート」と言う言葉を聞くことが私の人生にあろうとは。完全に頭が真っ白になり,セリフも吹っ飛びました。手汗が止まりません。それでも,これまで長年教師をしてきたこともあり,子どもの前で授業することは日常でしたから,一度吹っ切れるとあとはひたすらやり切るのみのメンタルになりました。
「はい,OK!」と言う言葉で,ようやく安堵できました。
この経験を通して,別の人格になることの難しさを実感し,役者さんのメンタルの強さに対して敬意を持ちました。映画は,その映画を視聴者が観たいと思うかどうかしかなく,役者はそのためだけに自分の人格を別の人格に変えているということを実感しました。そのほんの少しだけでもそれを体感できた私は進化したと思います。知らない世界に飛び込んで心の底から良かったと思いました。
きっとプロサッカーも同じだと思います。誰かのために全力でプレイする。誰かの幸せが自分の幸せになる。そのために日々準備をする。私はこれからプロになろうとしている長男に経験者としてアドバイスができるようになりました。
「コトクリエ」にはこの映画の台本が飾られていて,その台本には私ごときのサインが書かれています。
奈良で映画が公開されたときはなんと役者さんに混じって舞台挨拶まで経験しました。まさに人生はアメイジング。自分次第で世界は狭くできます。
次回は「ユースワーチャレでの経験」です。